執行
禁輸法の執行は、行政刑法に関する連邦法(VStrR)の手続に従い、経済省経済事務局(SECO)が担っている。SECOは、自らの調査結果、税関、スイス金融市場監督機構(FINMA)もしくは銀行からの報告、または報道に基づいて手続を開始する。SECOは聴取を行い、文書を要求し、捜索および差押えを命じることができる。手続は、打切りまたは処罰通知(Strafbescheid)のいずれかで終結する。当事者は30日以内に異議を申し立てることができ、その後SECOは処罰決定(Strafverfügung)を下す。当事者は、処罰決定の通知から10日以内に裁判所の判断を求めることができ、これにより事件は管轄を有する州(カントン)の刑事裁判所に移送される。そのような申立てがなければ、決定は確定判決の効力を有する。1 弁護人にとって、この手続には特有の力学がある。捜査する行政が判断も下すため、初期段階の書面による主張に重点が置かれる。裁判所への道は、二つの行政決定を経た後にはじめて開かれる。
公表されている執行実績は、なお控えめなものである。2024年2月、SECOは侵攻以降の違反の可能性がある事案230件、手続47件、終結事案20件、罰金9件を報告した。その大半は、奢侈品または経済的に重要な製品のロシアへの違法輸出に関するものであった。2 2024年7月までに、SECOは約300件の貿易違反の疑いを登録し、56件の手続を開始していた。終結した41件のうち、26件が打ち切られ、14件が処罰通知で、1件が処罰決定で終結した。3 2025年7月、SonntagsZeitung紙は、SECOが2022年以降700件近くの違反の疑いを登録し、77件の手続を開始し、65件を完了したと報じた。そのうち26件で300スイスフランから5,000スイスフランの罰金が科され、その大半は過失によるものであった。事案は、ロシア向けの30万スイスフラン相当の高級腕時計から、ベラルーシから輸入されたサウナや機械のスペアパーツにまで及んだ。事案の約3分の2は輸入に関するものであった。比較的大規模な2件の捜査は、スイス連邦検察庁(OAG)に移送されていた。4 評釈者らは、禁輸法上の刑事責任に関する連邦最高裁判所または連邦刑事裁判所の判例は公刊されておらず、執行は主として企業に対する処罰通知に依拠していると指摘している。5
批判者は、これらの数字を執行の弱さの証拠と読む。非政府組織Public Eyeは2022年以降、SECOはコモディティ分野における遵守状況を監査しておらず、トレーダーの自主規制に依存していると主張してきた。Public Eyeは2023年3月、SECOが欧州連合(EU)から採用した石油価格上限の遵守状況を積極的に監視する意図を持っていないと報告した。同団体はまた、スイス制裁法の人的適用範囲の欠缺を指摘した。スイス制裁法は、EU法や米国法と異なり、国外で行動するスイス国民には及ばないのである。6 2023年9月、国民議会は、コモディティ分野におけるロシア制裁の遵守状況に関する報告書を求める提案を135票対50票で可決した。7 SECOは、スイス製部品がロシアの兵器に渡ることを防ぐためにスイス産業界と緊密に協力していること、そして多層的な会社が関与する事案の複雑さには時間を要することを回答している。
チューリッヒの二つの事案は、金融センターに対する実際の執行圧力がどこから生じているかを示している。第一の事案は、ロシアの国家支配銀行のチューリッヒ子会社であるガスプロムバンク・スイスの元従業員に関するものである。2023年3月、チューリッヒ地方裁判所は、そのうち4名(ロシア人3名、スイス国民1名)を金融取引における注意義務の欠如で有罪とした。彼らは2014年から2016年にかけて、ウラジーミル・プーチンの長年の友人であるチェロ奏者セルゲイ・ロルドゥーギンに口座の開設と運用を認め、その口座を通じて約3,000万スイスフランが流れた。検察は、同人が当該資産の真の実質的支配者ではあり得なかったと主張していた。8 2024年6月、チューリッヒ高等裁判所は有罪判決を維持した。執行猶予付きの罰金は合計45万スイスフランを超えた。9 この事案は2022年の制裁より前の資金洗浄事案であり、経済犯罪の訴追に関する章でその文脈において論じる。しかし世間の認識においては、ロシア大統領をめぐる金融ネットワークに関わるものであったため、制裁をめぐる議論の一部となった。
第二の事案は、制裁時代の直接の帰結である。2018年にMichael Baerがチューリッヒで設立したMBaer Merchant Bankは、2025年末時点で約700の取引関係について49億スイスフランの顧客資産を運用していた。2026年2月26日、米国金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)は米国愛国者法(USA PATRIOT Act)第311条に基づく措置を提案し、同行を主要な資金洗浄懸念のある金融機関に指定した。スイスの銀行がこの指定を受けたのは初めてであった。2026年2月27日、同行が連邦行政裁判所への不服申立てを取り下げた後、FINMAは同行の免許を取り消し、その清算を命じた。FINMAは、取引関係の80パーセントが高いリスクを伴っており、2025年末までに受け入れた資産の98パーセントが高リスク顧客からのものであったと認定した。FINMAはまた、同行がロシアおよびイランに関連する資産凍結を顧客が潜脱するのを助け、被制裁顧客のために取引を実行し、コンプライアンス部門の勧告を繰り返し無視していたことを示す証拠を認定した。FINMAはバーゼルのKellerhals Carrardから清算人を選任し、4名の個人に対する手続を開始した。10 この事案は、今日、金融機関に対する制裁執行を特徴づける米国とスイスの圧力の組合せを示している。決定的な打撃はワシントンから来た一方で、同行を終わらせた法的手段はスイスの監督法であった。
注
- VStrR、SR 313.0、第67条(30日以内の異議)、https://www.droit-bilingue.ch/de-fr/3/31/313.0-67-72.html、および第72条(10日以内の裁判所の判断の申立て)、https://www.droit-bilingue.ch/de-fr/3/31/313.0-72-77.html。 ↩
- swissinfo.ch、「Swiss to crack down on Russian sanctions’ evaders」、2024年2月22日(前掲)。 ↩
- swissinfo.ch、「Criminal proceedings filed over Swiss components in Russian weapons」、2024年7月17日、https://www.swissinfo.ch/eng/foreign-affairs/russian-weapons-and-swiss-parts-seco-collaborates-with-companies/84047054。 ↩
- watson.ch、「700 mögliche Schweizer Verstösse gegen Russland-Sanktionen – die Sonntagsnews」、2025年7月27日、https://www.watson.ch/international/schweiz/977896128-sonntagsnews-700-moegliche-schweizer-verstoesse-gegen-russland-sanktionen。SonntagsZeitung紙が公表した数字を報じている。 ↩
- Global Investigations Review, The Guide to Sanctions, 7th ed.、「Understanding Switzerland’s sanctions landscape: a comprehensive guide to compliance and enforcement」、https://globalinvestigationsreview.com/guide/the-guide-sanctions/seventh-edition/article/understanding-switzerlands-sanctions-landscape-comprehensive-guide-compliance-and-enforcement。同ガイドはまた、指定に関する連邦行政裁判所の判決(B-547/2023、B-3925/2023およびB-4084/2023)、ならびにリスト掲載に対する不服申立ての許容性に関する連邦最高裁判所判例集(BGE)139 II 384にも言及している。 ↩
- Public Eye、「Sanctions on Russian oil: Switzerland’s enforcement refusal leaves its traders to regulate themselves」、2023年3月20日、https://www.publiceye.ch/en/media-corner/press-releases/detail/sanctions-on-russian-oil-switzerlands-enforcement-refusal-leaves-its-traders-to-regulate-themselves。 ↩
- Public Eye、「Swiss Parliament calls for a Commodity Trading Act and wants the Enforcement of Sanctions against Russia inspected」、2023年9月21日、https://www.publiceye.ch/en/media-corner/press-releases/detail/swiss-parliament-calls-for-a-commodity-trading-act-and-wants-the-enforcement-of-sanctions-against-russia-inspected。 ↩
- swissinfo.ch、「Four bankers who helped Putin’s friend set up Swiss bank account convicted」、2023年3月30日、https://www.swissinfo.ch/eng/business/four-bankers-who-helped-putin-s-friend-set-up-swiss-bank-account-convicted/48404704。 ↩
- swissinfo.ch、「Swiss court upholds ‘Putin’s bankers’ Gazprom conviction」、2024年6月25日、https://www.swissinfo.ch/eng/banking-fintech/swiss-court-upholds-putins-bankers-gazprom-conviction/81749294。 ↩
- FINMA、「FINMA proceedings: MBaer Merchant Bank AG in liquidation」、2026年2月27日、https://www.finma.ch/en/news/2026/02/20260227-mm-mbaer-liquidation/;swissinfo.ch、「Swiss Bank MBaer Gets Shut Down Over Alleged Sanction Breach」、https://www.swissinfo.ch/eng/swiss-bank-mbaer-gets-shut-down-over-alleged-sanction-breach/91010974。後者は、ベネズエラの汚職スキームとの関係の疑いにも言及している。 ↩
本記事は一般的な情報提供のみを目的としています。法律上または税務上の助言を構成するものではなく、個別案件に関する助言に代わるものでもなく、弁護士と依頼者との間に委任関係を生じさせるものでもありません。本記事は2026年10月時点の法的状況を反映しています。