市場、規制者及び交渉相手としての米国
バーゼルのグループにとって決定的な市場は米国である。各社の年次報告書によれば、RocheとNovartisの医薬品売上高のおよそ40〜50%が米国で計上されており、この割合は、特許医薬品の米国価格が欧州価格よりも速く上昇したことに伴い、過去20年間に拡大してきた。1 米国はまた、スイスの医薬品輸出の単独で最大の仕向地であり、これにより医薬品部門は、米国に対するスイスの財貿易黒字の主要な要因となった。この黒字は、2025年1月に発足した米国政権が二国間の貿易赤字を不公正貿易の尺度として扱い始めたことで、政治的な意味を持つようになった。
米国市場の重要性は、その規模にとどまらない。米国食品医薬品局(FDA)は、世界の開発プログラムの大半が満たすよう設計される規制上の基準を定めている。米国の資本市場は、バーゼルのグループがパイプラインの多くをライセンス導入または買収するバイオテクノロジー企業に資金を供給している。米国の大学および研究病院は、臨床および科学の人材の最も厚い層を形成している。第G部第II章が資金調達の側面から記述した2009年のRocheによるGenentechの残余株式の取得により、サンフランシスコ・ベイエリアはRocheグループの第二の本拠地となった。2 Novartisは2000年代初頭に世界研究本部をマサチューセッツ州ケンブリッジに移したが、バーゼルにも相当規模の研究を残した。したがって両グループは、2025年の貿易紛争のはるか以前から、重要な点で米国企業であった。
2025年に変わったのは、この依存が交渉上の梃子として利用されたことである。米国政権は、従来別々に議論されていた三つの手段を組み合わせた。すなわち、貿易黒字を有する国からの輸入に対する一般関税、国家安全保障を理由とする医薬品輸入に関する部門別調査、そして米国の薬価を外国の価格に連動させる行政上の取組みである。各手段は、一部はスイスを、一部は産業を標的としていた。これらの組合せにより、スイス連邦がすべての財に対する関税について交渉する一方で、RocheとNovartisが価格、投資および部門別関税に対する自らのエクスポージャーについて別個に交渉するという交渉状況が生まれた。以下の節では、これらの手段を順に検討する。
注
- Roche Holding AGおよびNovartis AGの年次報告書における売上高の地域別内訳;第G部第IV章「2025年以降の米国の価格圧力」の節も参照。数値は要確認。 ↩
- 2009年のRocheによるGenentechの少数株主持分の取得とその資金調達については、第G部第II章「Genentechの資金調達:2009年の債券発行」の節を参照。要確認。 ↩
本記事は一般的な情報提供のみを目的としています。法律上または税務上の助言を構成するものではなく、個別案件に関する助言に代わるものでもなく、弁護士と依頼者との間に委任関係を生じさせるものでもありません。本記事は2026年10月時点の法的状況を反映しています。