サステナブル・ファイナンスの将来
サステナブル・ファイナンスについては、第E部第II章及び第F部第V章が気候関連開示及びグリーンウォッシングに関する規則、並びに除外リストへのバーゼルの名称の登場を論じた際に、本部で取り上げることが約束されていた。それがここで独立した扱いに値するのは、その軌道が数年前に見えたほど確実ではないからである。2015年から2021年までの間に、サステナブル・ファイナンスはニッチな分野から、大半の大手銀行及び資産運用会社の戦略の中心へと移った。パリ協定、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワークの創設、及びサステナブル・ファイナンスに関する欧州連合(EU)の行動計画は、この動きに制度的枠組みを与えた。1 スイスは、任意の業界基準と選択的な拘束力ある規則を組み合わせた手法でこれに続いた。
スイスの手段にはいくつかの要素がある。連邦参事会が2022年に導入し、その後改訂してきたスイス気候スコア(Swiss Climate Scores)は、金融機関が自らの投資ポートフォリオがパリ協定の目標とどの程度整合しているかを示すために用いることのできる一連の指標を提供する。2 2024年1月1日から施行されている気候関連開示に関する規則は、一定の閾値を超える銀行及び保険会社を含む大規模な公益事業体に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の勧告に沿って気候関連事項を報告することを求めている。3 スイス金融市場監督機構(FINMA)は、最大規模の金融機関に気候関連の財務リスクの開示を求めており、自然関連の財務リスクに関する通達を公表している。スイス銀行協会及びスイス資産運用協会の自主規制は、サステナブルとして販売される商品、及び助言へのサステナビリティ選好の組込みについての最低基準を定めている。4
2022年頃以降、この動きは複数の方向から抵抗に遭っている。米国では、多数の州が、公的年金基金による環境・社会・ガバナンス(ESG)基準の利用を制限し、又は化石燃料に敵対的とみなされる資産運用会社に不利益を課す法律又は方針を採用した。いくつかの大手銀行及び資産運用会社は、2024年及び2025年に国際的な気候同盟から脱退した。報道によれば、ネットゼロ・バンキング・アライアンスは2025年に会員制の同盟としての活動を停止した。5 EUでは、オムニバス簡素化として知られる2025年初頭の立法パッケージが、企業のサステナビリティ報告及びデューデリジェンスに関する規則の適用範囲を縮小し、その時期を遅らせた。サステナブル・ファイナンス開示規則の見直しも、サステナブル・ファンドの商品分類を変更すると見込まれていた。6 スイスでは、連邦参事会がグリーンウォッシングに関する規制を検討したが、業界の自主規制との比較衡量を行った。この計画の状況は、最新の資料に照らして確認すべきである。7
本章のシナリオにとって、サステナブル・ファイナンスは三つの力が相互に作用する分野として理解するのが最もよい。気候変動そのものは既定の要素である。財産、農業、保険及びサプライチェーンに対するその物理的影響は、政治的な流行にかかわらず、2035年には今日よりも大きくなっているであろう。規制上の対応は決定的な不確実性である。それは米国、EU及びスイスにおける政治的多数派に依存するからである。顧客の需要は第三の力を成し、世代や地域によって異なる。前述の相続人は、多くの調査によれば、親の世代よりもサステナブル投資に関心が高い。もっとも、その選好がリターンと衝突する場合にどの程度強いかについては争いがある。8
サステナブル・ファイナンスの将来については、三つのバリエーションを区別することができる。第一のバリエーションでは、サステナブル・ファイナンスは通常のリスク管理となる。銀行は気候リスク及び自然リスクを他のあらゆるリスクと同様に財務リスクとして扱い、監督当局がそれを求め、すべての商品がそうしたリスクを考慮することが期待されるため、「サステナブル」という表示はマーケティング上の価値を失う。第二のバリエーションは分断であり、EU、スイス及び米国が異なる方向に進み、グローバルな銀行は市場ごとに異なる基準を維持しなければならない。第三のバリエーションでは、サステナブル・ファイナンスは明示的にそれを求める顧客向けの専門分野に後退し、主流の商品は純粋に財務的な基準に回帰する。これらのバリエーションは、以下の四つのシナリオのそれぞれと組み合わせることができる。バーゼルにとって、第一のバリエーションは、この分野で専門性を築いてきた機関に有利に働くであろう。その中には、サステナブル投資を得意分野としてきたBank J. Safra Sarasin、及びバーゼル委員会と金融安定研究所を通じて気候関連の財務リスクに取り組んできた国際決済銀行(BIS)周辺の研究・政策コミュニティが含まれる。9
注
- 2015年12月12日のパリ協定、気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS、2017年設立)、及び2018年3月の欧州委員会の持続可能な成長への資金供給に関する行動計画(その後のタクソノミー規則(EU)2020/852及びサステナブル・ファイナンス開示規則(EU)2019/2088)については、それぞれの公式刊行物を参照。要確認。 ↩
- 2022年6月に連邦参事会が導入し、その後毎年更新されているスイス気候スコア、及び金融機関による任意ベースでのその利用については、国際金融担当国家事務局及び連邦環境局の刊行物を参照。状況は要確認。 ↩
- 2022年11月23日の気候関連開示に関する規則(SR 221.434)。2024年1月1日から施行されており、TCFD勧告に基づき、気候関連事項についてスイス債務法(CO)第964a条以下の非財務報告義務を実施するものである。要確認。 ↩
- 自然関連の財務リスクに関するFINMA通達2025/3(2024年12月公表、経過期間あり)、投資助言及びポートフォリオ運用へのESG選好及びESGリスクの組込みに関するスイス銀行協会(SBA)のガイドライン、並びにサステナビリティ関連の集団投資資産の透明性及び開示に関するスイス資産運用協会(AMAS)の自主規制については、FINMA、SBA及びAMASの刊行物を参照。番号及び状況は要確認。 ↩
- 米国の複数の州による反ESG措置、2024年から2025年にかけての大手銀行及び資産運用会社のネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)及びネットゼロ・アセットマネージャーズ・イニシアティブからの脱退、並びに2025年に報じられたNZBAの会員制活動の終了については、報道及び関係する同盟の刊行物を参照。状況は要確認。 ↩
- 企業サステナビリティ報告指令(EU)2022/2464及び企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(EU)2024/1760の簡素化に関する2025年2月26日の欧州委員会のオムニバス提案、「stop-the-clock」指令、並びにサステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)の見直しについては、EU官報及び欧州委員会の刊行物を参照。状況は要確認。 ↩
- 金融セクターにおけるグリーンウォッシング防止に関する規則についての連邦参事会の検討(2024年から2025年にかけての意見聴取及びその後の決定)、並びにSBA及びAMASの自主規制との関係については、連邦財務省の刊行物を参照。状況は要確認。 ↩
- サステナビリティに関する若年の富裕層顧客及び相続人の投資選好についての調査(さまざまな銀行及びコンサルティング会社の調査)、並びにサステナブル投資に対する支払意思に関する学術文献については、例えば Swiss Sustainable Finance の調査及び投資家選好に関する研究文献を参照。要確認。 ↩
- 気候関連の財務リスクに関するバーゼル委員会の取組み(気候関連財務リスクに関するタスクフォース、2022年6月の原則、2025年の開示枠組み)、並びに気候リスク及び自然リスクに関するBIS及びその金融安定研究所の取組みについては、BISの刊行物を参照。状況は要確認。 ↩
本記事は一般的な情報提供のみを目的としています。法律上または税務上の助言を構成するものではなく、個別案件に関する助言に代わるものでもなく、弁護士と依頼者との間に委任関係を生じさせるものでもありません。本記事は2026年10月時点の法的状況を反映しています。