印刷本の経済学
印刷本の生産には、単一の職種では提供できない投入物の組合せが必要であった。印刷業者には、専門職人が彫った父型から作られた鋳型で、鉛、錫及びアンチモンの合金を鋳込んで作る活字、大工が組み立て金属部品を備えた印刷機、製紙場から大量に購入する紙、油煙と亜麻仁油から調製するインク、そして植字、印刷、乾燥及び刷り紙の保管のための場所を備えた工房が必要であった。また、熟練した職人も必要であった。すなわち、活字を一字ずつ組む植字工、印刷機を操作する印刷工、校正刷りを読む校正者である。学術書には写本からテキストを確定することのできる編集者が、挿絵入りの書物には図案を描く画家とそれを版木に彫る彫師が必要であった。1
印刷の費用構造には、伝統的な手工業と区別される特徴があった。すなわち、固定費が高く、限界費用が低いことである。1ページの活字を組むことは費用がかかったが、いったん活字が組まれれば、追加の部数は紙、インク及び印刷工の労働の費用で印刷することができた。したがって、この事業の経済性は大部数の印刷に有利であった。しかし、大部数は大量の紙を意味した。紙は最大の単一費目であり、書物が売れる前に代金を支払わなければならなかった。また、大部数は大量の売れ残り在庫を意味し、それは数か月又は数年にわたって資本を拘束した。ある書物の需要を見誤った印刷業者は、ただ一度の失敗した版によって破滅することがあり得た。
生産サイクルは長かった。数巻のフォリオ判からなる教父の全集のような大規模な版の準備には、数年を要することがあった。写本を収集して校合し、テキストを確定し、活字を組み、1枚ずつ印刷しなければならなかった。この間、印刷業者は、その版から何の収入も得ることなく、職人、編集者及び紙の供給業者に支払いを行った。書物が完成すると、それを市に輸送しなければならず、そこで書籍商に、しばしば掛けで販売された。その場合、支払いは6か月後の次の市になって初めて届くこともあった。最初の投資から最終的な支払いまでに、数年が経過し得た。
こうした経済性により、印刷は、手工業としては異例の規模の資本と信用を必要とする事業となった。印刷業者は、相当な自己資産を有するか、あるいは自らに資金を提供する意思のある組合員及び貸手を必要とした。初期の印刷の歴史は破産に満ちている。それは、1455年に出資者ヨハン・フストに工房を奪われたグーテンベルク自身から、数版を出した後に姿を消した多くの印刷業者にまで及ぶ。成功した印刷業者は、技術的能力と商業的判断力及び資本へのアクセスを兼ね備えた者であった。
注
- 初期の印刷の生産工程と費用(活字、印刷機、紙、労働、校正者)については、書物の歴史に関する標準的文献、例えばFebvre/Martin, L'apparition du livre, 1958を参照。要確認。 ↩
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