ロシュ:一族による支配とバイオテクノロジーへの賭け
Rocheは、所有構造と戦略においてNovartisと異なる。Novartisが支配株主のいない株式分散型の会社であるのに対し、Rocheは、創業者Fritz Hoffmann-La Rocheの子孫とOeri家によって支配されており、両家は株主プールを通じて議決権付き無記名株式の過半数を保有している。残りの資本は議決権のない持分証券、すなわちGenussscheine(参加証券)から成り、これがRocheの持分取引の大部分を占め、主要株価指数に組み入れられているRocheの銘柄を構成している。1 この構造はRocheを敵対的買収から守り、アクティビスト投資家の圧力を受けることなく長期的な戦略を追求することを同社に可能にしてきた。第D部と第E部では、創業家のプールと、Novartisが2021年にRocheに売り戻すまで20年間保有していたRocheの持分について述べた。
現代のRocheを決定づけた戦略的決定は、米国のバイオテクノロジー企業Genentechへの投資であった。1976年にサウス・サンフランシスコで設立されたGenentechは、遺伝子組換えDNA技術の先駆者の一つであり、遺伝子工学によってヒトインスリンとヒト成長ホルモンを製造した最初の企業であった。1990年、Rocheは約21億米ドルで約60パーセントの過半数持分を取得したが、Genentechの経営陣と研究文化はおおむね独立したままにした。2 この投資は当時、懐疑的に見られていた。しかし、それは製薬産業史上最も収益性の高い買収の一つであったことが判明した。Genentechが、その後数十年にわたるがん治療におけるRocheの優位の基盤となった腫瘍領域の抗体医薬を開発したからである。
2009年、RocheはGenentechの残りの少数株式を約470億米ドルで取得した。これは、Genentechの独立取締役がRocheの当初提案を上回る価格を勝ち取った交渉の末のことであった。買収資金を調達するため、Rocheは金融危機のさなかに複数の通貨建てで社債を発行し、その中には当時史上最大級の社債発行の一つが含まれていた。3 この取引は、バーゼルのグループが国際資本市場にアクセスできることを示しており、このテーマは第II章で展開する。この取引はまた、バーゼルの本社と国外の研究拠点とを組み合わせる戦略をも示している。国外の研究拠点はサウス・サンフランシスコと日本にあり、日本ではRocheが2002年に中外製薬の過半数持分を取得したが、同社は引き続き東京で上場している。4
Rocheの第二の柱は診断である。1997年、RocheはBoehringer Mannheimの持株会社であるドイツのCorangeを約150億スイスフランで買収することに合意し、取引は1998年に完了した。これによりRocheは世界最大級の体外診断薬の供給者となり、ドイツのマンハイムとペンツベルクに強固な拠点を持つに至った。2008年の米国Ventana Medical Systemsを含むその後の買収により、診断事業はさらに拡大した。5 医薬品と診断の組合せは、診断検査によって特定の医薬品から恩恵を受ける患者を特定するという、Rocheの個別化医療戦略の基盤となっている。患者は同じグループが供給する検査によって選別されるため、この戦略は医学的な合理性と商業的な論理を兼ね備えている。
Rocheも事業の売却を行ってきたが、その規模はNovartisの取引よりも小さい。同社は2003年にビタミン・ファインケミカル事業をオランダのDSMに、2004年にコンシューマー・ヘルス事業をBayerに売却した。ビタミン事業は、1990年代のビタミン・カルテルへの参加を理由に欧州連合(EU)と米国で競争法上の手続の対象となり、罰金で終結した。この件は競争当局の公式決定に記録されている。6 それ以降、同グループは医薬品と診断に集中しており、そのポートフォリオの中心は腫瘍、免疫、神経科学、眼科である。
注
- 無記名株式と議決権のない持分証券(Genussscheine)から成るRoche Holding AGの資本構成、および議決権の過半数を保有する創業家の株主プールについては、Rocheの年次報告書およびコーポレート・ガバナンス報告書を参照。割合は要確認。あわせて第D部第IV章を参照。 ↩
- 1990年のRocheによる約21億米ドルでのGenentechの過半数持分の取得については、Rocheの1990年年次報告書、およびGenentechの歴史に関する文献、たとえばSally Smith Hughes, Genentech: The Beginnings of Biotech, University of Chicago Press, 2011を参照。数値は要確認。 ↩
- 2009年3月のRocheによる約468億米ドルでのGenentech少数株式の取得、および米ドル、ユーロ、英ポンド、スイスフラン建ての社債発行によるその資金調達については、Rocheの2009年年次報告書および当時の経済紙を参照。数値は要確認。 ↩
- Rocheと中外製薬(Chugai Pharmaceutical Co., Ltd.)との戦略的提携、すなわち2002年にRocheが過半数持分を取得しつつ中外製薬が東京証券取引所に上場を続けた提携については、Rocheおよび中外製薬の年次報告書を参照。要確認。 ↩
- 1997年に発表され1998年に完了したRocheによるCorange Ltd.(Boehringer Mannheim)の買収、および2008年のVentana Medical Systemsの買収については、Rocheの年次報告書を参照。数値は要確認。 ↩
- Roche Vitamins and Fine ChemicalsのDSMへの売却(2003年)およびRoche Consumer HealthのBayerへの売却(2004年)については、Rocheの年次報告書を参照。ビタミン・カルテルについては、欧州委員会、2001年11月21日の事件COMP/E-1/37.512 – Vitaminsにおける決定、および1999年の米国における司法取引を参照。事件番号は要確認。 ↩
本記事は一般的な情報提供のみを目的としています。法律上または税務上の助言を構成するものではなく、個別案件に関する助言に代わるものでもなく、弁護士と依頼者との間に委任関係を生じさせるものでもありません。本記事は2026年10月時点の法的状況を反映しています。