市場整合的評価とリスク・マージン
スイス・ソルベンシー・テスト(SST)は、すべての資産および負債の市場整合的な評価を要求する。流動的な市場で取引される資産は市場価格で評価される。市場価格の存在しない負債は、期待将来キャッシュフローの最良推定値をリスクフリー金利で割り引いたものに、負債を第三者に移転する費用を反映したマージンを加えて評価される。1 この手法は、法定会計の伝統と決別するものであった。法定会計では、責任準備金は保守的な前提と固定された予定利率によって算定されていたため、含み益や含み損が貸借対照表に表れることなく積み上がりえたのである。
市場整合的な貸借対照表には透明性という長所がある。それは、金利が低下すると直ちに長期保証の価値に対するその影響を示し、資産と負債のデュレーションのミスマッチも可視化される。もっとも、この手法には短所もある。市場価格の変動がリスク負担資本に直接反映されるため、SST比率は変動しやすく、とりわけ長期の負債を有する生命保険会社においてそうである。長期金利の低下は、生命保険会社がその義務を履行する長期的な能力に何の変化もない場合であっても、数か月のうちにそのSST比率を数十ポイントも低下させることがある。2 この変動性は、2008年以降の低金利の時期に中心的な問題となった。
割引に用いられるリスクフリー金利曲線は、主要通貨についてスイス金融市場監督機構(FINMA)が公表している。債券市場が流動的である範囲を超える満期については、曲線を外挿しなければならない。外挿の方法は、年金のようなきわめて長期の負債の価値に相当な影響を及ぼしうるものであり、パラメーターの選択はFINMAと業界の間で繰り返し議論されてきた。3 ソルベンシーIIとは異なり、SSTには、保険会社が対応する資産を満期まで保有する場合にリスクフリー金利を上回る金利で負債を割り引くことを認めるマッチング調整やボラティリティ調整の定めがない。スイスの保険会社は同様の仕組みを求めて主張してきた。FINMAは概ね、経済的実態が貸借対照表に示されるべきであるとの立場を維持してきたが、2024年の改正はこの分野に一定の柔軟性を導入した。4
市場価値マージン(Marktwertmarge)は、第三者が保険会社の負債を引き受けるために要求するであろう金額を表す。これは資本コスト・アプローチによって算定される。すなわち、第三者は、移転された負債がランオフするまでそれに対応する資本を保有しなければならず、その資本についてリスクフリー金利を上回る収益を要求することになる。5 この概念は、保険会社が破綻した場合であっても保険契約者は保護されるべきであるという考え方に立脚している。なぜなら、残存資産は、他の保険会社にポートフォリオを引き受けさせるのに十分であるべきだからである。したがって、市場価値マージンは、SSTの経済的評価と、その究極の目的であるランオフ・シナリオにおける保険契約者の保護とを結ぶ架け橋である。
注
- 資産および負債の市場整合的評価ならびに負債の最良推定値については、保険監督令(AVO)(改正後)第30条~第35条およびFINMAのSST文書を参照。要確認。 ↩
- SST比率の変動性および金利感応度については、スイスの保険会社が財務状況報告書(Financial Condition Reports)で公表している感応度分析およびFINMA Risk Monitorを参照。要確認。 ↩
- FINMA、SSTのリスクフリー・イールドカーブおよび外挿方法の年次公表。ソルベンシーIIにおける欧州保険・企業年金監督機構(EIOPA)のスミス・ウィルソン法および終局フォワードレートと比較せよ。要確認。 ↩
- SSTにおけるマッチング調整またはボラティリティ調整の不存在、業界の立場(スイス保険協会、SVV)および2024年の改正AVOによって導入された変更については、AVO改正に関するFINMAの説明報告書およびSVVの意見表明を参照。現状は要確認。 ↩
- SSTにおける市場価値マージンおよび資本コスト率(従来はリスクフリー金利を6%上回る水準)ならびにソルベンシーIIにおけるもの(リスクマージン、資本コスト率6%、2025年のソルベンシーII見直しで4.75%に引下げ)については、FINMAのSST文書および指令2009/138/ECを改正する Directive (EU) 2025/2 を参照。率および現状は要確認。 ↩
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