ジェネンテック買収の資金調達:2009年の社債発行
バーゼルの製薬グループの財務史において最も示唆に富む出来事は、2009年のRocheによるGenentechの少数株式の取得である。Rocheは1990年にサウス・サンフランシスコのこのバイオテクノロジー企業の過半数を取得しており、同社が相当の自律性を持つ独立した上場会社として存続することを認めていた。2008年7月、Rocheは、Genentechの株式のうち自らがまだ保有していない部分、すなわち同社の約44パーセントを取得することを提案した。Genentech取締役会の特別委員会が当初の価格を拒絶した数か月の交渉を経て、両当事者は2009年3月に1株当たり95米ドルの価格で合意し、少数株式の価値は約470億米ドルと評価された。1
その時期は異例であった。この取引は、リーマン・ブラザーズの破綻から数か月後、銀行貸出しが厳しく制約され、多くの信用市場が正常に機能しなくなっていた、世界金融危機の最悪の局面において資金を調達しなければならなかった。Rocheは一連の社債発行で対応し、それは当時までに行われた事業会社の社債発行として最大級のものであった。2009年2月下旬、同グループは米国で、複数の満期に分けて総額約165億米ドルの社債を発行した。同じ時期に、数十億ユーロのユーロ建て社債と、さらにスイスフラン建ておよび英ポンド建ての社債も発行した。2
コマーシャル・ペーパーおよび既存の流動資金と合わせて、これらの発行は買収を完了するために必要な現金をもたらし、買収は2009年3月にクロージングを迎えた。発行の成功は、危機のさなかにあっても、投資家がキャッシュフローに景気後退への耐性があるとみなされる借り手に対しては多額の資金を貸し付ける用意があることを示した。医薬品への需要は景気循環にほとんど左右されない。経済の状態にかかわらず、患者は引き続き医薬品を必要とするからである。大幅な応募超過となったRocheの社債は、その後数か月間、他の高格付けの事業会社発行体にとっての価格決定の基準となった。3
Genentechの資金調達により、Rocheの負債は同グループとしては異例の水準にまで増加した。純有利子負債は数百億スイスフランに上り、同社はこれを営業キャッシュフローから速やかに削減する意向を表明した。その後数年間に、Rocheは満期を迎えた社債の相当部分を償還し、キャッシュフローを用いてより保守的な貸借対照表に戻った。この出来事は、低レバレッジの伝統を持つ会社が戦略的な機会が生じたときに自らの信用力を活用できること、そして債券資本市場がそのような会社を限られた期間であれば多額の借入れを担いうるとみなしていることを示した。4
金融センターの観点から注目すべきは、Genentechの資金調達の大部分が米国とユーロ市場で行われたことである。スイスフラン建て債券市場は、よく発達しているとはいえ、その規模の発行を吸収することはできなかったであろう。これはバーゼルにおけるコーポレート・ファイナンスの構造的特徴を示している。すなわち、事業上の本社はスイスにある一方、最大規模の取引を賄う資本は主として米国と欧州の投資家から来ているのである。スイスの銀行はシンジケートの一員として役割を果たしたが、米ドル建て発行における主導的な地位は米国と欧州の大手投資銀行が占めた。5
注
- 2009年のRocheによるGenentech少数株式の取得、2008年7月の当初提案、合意価格1株当たり95米ドル、および総額約468億米ドルについては、Roche Holding AGの2008年7月21日および2009年3月12日のプレスリリース、ならびにRocheの2009年年次報告書を参照。数値は要確認。 ↩
- 約165億米ドルの米ドル建て発行、ユーロ建て発行、ならびにスイスフラン建ておよび英ポンド建ての発行を含む2009年2月および3月のRocheの社債発行については、2009年2月および3月のRocheのプレスリリース、Rocheの2009年年次報告書、および当時の経済紙の報道を参照。金額およびトランシェは要確認。 ↩
- 2009年3月のGenentech取引の完了、コマーシャル・ペーパーの利用、およびRocheの社債発行の応募超過については、Rocheの2009年年次報告書、ならびに当時のFinancial TimesおよびNeue Zürcher Zeitungの報道を参照。要確認。 ↩
- Genentech買収後のRocheの純有利子負債の推移とその後の削減については、Rocheの2009年から2013年の年次報告書を参照。数値は要確認。 ↩
- 2009年のRoche社債発行の引受シンジケートの構成については、当時の募集書類および報道を参照。各銀行の役割は要確認。 ↩
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