最終化されたバーゼルIII、アウトプット・フロアとスイスの住宅ローン
2017年12月のバーゼルIII最終化パッケージは、スイス当局がレバレッジ比率によって対処していた問題、すなわち内部モデルにより算出されるリスク・ウェイトのばらつきに対する国際的な回答であった。バーゼル銀行監督委員会の調査は、同一の仮想ポートフォリオについて銀行が算出する所要自己資本が大きく異なることを示していた。そこで同パッケージは資本フロアを導入した。これにより、経過期間後、内部モデルにより算出したリスク加重資産は、標準的手法により算出した額の72.5%を下回ってはならないこととされた。1
スイスの銀行にとって、資本フロアは、その貸借対照表における住宅ローンの比重の大きさゆえに特有の意味を持つ。1兆スイスフランを超える規模を有するスイスの住宅ローン市場は、経済規模との対比において世界最大級である。スイスの世帯の大半は住居を賃借している。持家所有者は、伝統的に住宅ローンを完済しない。税制も長くこの慣行を後押ししてきた。住宅ローン利息は控除可能である一方、所有者は不動産の帰属賃料価値に対して課税されていたからである。内部モデルを用いる銀行、とりわけ大手銀行および一部の大規模な州立銀行は、これらの住宅ローンについて低いリスク・ウェイトを算出していた。これは、スイスの住宅用不動産における歴史的に低い損失を反映したものであった。2 資本フロアは、こうしたモデルの恩恵を制限し、それを用いる銀行の住宅ローン・ポートフォリオに対する所要自己資本を引き上げる。
最終化基準のスイスにおける実施は、標準的手法における住宅ローンのリスク・ウェイトも改定した。バーゼルの文言は、住宅用不動産のリスク・ウェイトを担保掛目(LTV)によって区分し、自己居住用不動産と、返済が賃料収入に依存する不動産とを区別している。スイスの規則はこの構造を採用した。スイス金融市場監督機構(FINMA)によれば、担保掛目の高い投資用不動産のリスク・ウェイトは従前より大幅に高くなった。これは、過去にこうしたポートフォリオで観察された損失を反映したものである。3 第E部第II章で公認の自主規制として述べたスイス銀行協会の住宅ローン融資の最低要件に関するガイドラインは、新規則に合わせて改定された。投資用不動産に関する2019年のより厳格な要件が新たなリスク・ウェイトに置き換えられたことで、自主規制の一要素がバーゼル由来の規則に道を譲ったのである。
スイス特有の二つの事情が、この国内法化を複雑にしている。第一は、住宅ローンの負担可能性に関するものである。スイスの銀行は伝統的に、借り手が市場金利を大きく上回る想定金利、通常は5%に維持費を加えた水準で不動産の費用を負担できるかを審査し、その費用が借り手の所得の約3分の1を超えない場合にのみ融資を行う。バーゼル基準にはこのような基準は含まれていない。FINMAは、銀行が自らの負担可能性基準を満たさない融資を方針の例外として過度に多く実行していること、および非現実的な前提を用いていることを繰り返し批判してきた。FINMAは、慣行が改善されなければ、負担可能性を規則によって規制する可能性があることを示唆している。4
第二の事情は、スイスが住宅ローンに適用しているマクロプルーデンス手段、すなわち第E部第II章で述べたセクター別カウンターシクリカル資本バッファーである。これは、各国当局がバーゼル由来の手段を自国市場に適合させた形で活用できることを示している。バーゼル基準は、民間部門に対するすべての信用エクスポージャーに適用されるカウンターシクリカル・バッファーを想定している。スイスは、国内当局が不動産市場を景気循環リスクの主要な源泉と特定したため、これを住宅ローンにのみ適用している。5 スイスのセクター別バッファーは、その後、欧州連合(EU)の複数の加盟国を含む他国におけるセクター別マクロプルーデンス手段をめぐる議論において、参照例として引用されている。
実施の時期は、それ自体として問題を生じた。スイスは予定どおり2025年1月1日にバーゼルIII最終化基準を実施した。EUは同時に大部分の規則の適用を開始したが、新たな市場リスクの枠組みは延期し、英国と米国はさらに実施を遅らせた。米国の当局については、2023年7月の提案が論争を招いた後のことである。6 スイス当局がスケジュールを守ったのは、バーゼルにおけるスイスのコミットメントの信頼性がかかっていたこと、および改革が長年にわたって準備されてきたことによる。スイスの銀行、とりわけUBSは、最初に実施する国の一つとなることの競争上の帰結を指摘した。この経緯は、前章が示したように、バーゼル銀行監督委員会の歴史を貫く集合行為問題を例証している。各加盟国は他の加盟国も国際基準を実施する場合にのみその恩恵を受けるため、いずれの加盟国も待つという誘惑に直面するのである。
注
- 段階的導入期間を伴う72.5%の資本フロアについてはBasel Committee on Banking Supervision, Basel III: Finalising post-crisis reforms(2017年12月)を、また銀行勘定の信用リスクに係るリスク加重資産に関する同委員会の規制整合性評価(2013年以降)を参照。要確認。↩
- スイスの住宅ローン市場の規模と構造、低い持家率、一部償還の慣行、および自己居住用不動産の税務上の取扱い(帰属賃料価値と住宅ローン利息の控除可能性。帰属賃料価値の廃止は2025年9月28日の国民投票で承認されたが、施行日はなお未定である)については、スイス国立銀行(SNB)の金融安定報告書および連邦税務局の刊行物を参照。状況は要確認。↩
- 住宅ローン融資とバーゼルIII最終化基準に関する2024年3月27日のFINMAプレスリリース(自己居住用不動産と収益不動産とで区分されたリスク・ウェイト、担保掛目の高い投資用不動産に対するより高いリスク・ウェイト、不動産評価の独立性)、および改正されたFINMA信用リスク令。要確認。↩
- スイスの住宅ローン融資における負担可能性審査(約5%の想定金利に付随費用を加えたもの、総所得の約3分の1を上限とする)、方針の例外に対するFINMAの批判、および追加的措置の可能性に関するFINMAの声明については、FINMAのRisk Monitorおよび2024年3月27日のプレスリリースを参照。要確認。↩
- バーゼルIIIの枠組みにおけるカウンターシクリカル資本バッファー(BCBS, Guidance for national authorities operating the countercyclical capital buffer, 2010年12月)およびスイスにおけるそのセクター別適用(自己資本令(CAO)第44条)については、国際決済銀行(BIS)およびSNBの刊行物を参照。要確認。↩
- 市場リスク規則(FRTB)の延期を伴う2025年1月1日からの規則(EU)2024/1623(CRR3)の適用、英国におけるBasel 3.1の実施延期、ならびに2023年7月の米国の「Basel III endgame」提案とその後の扱いについては、欧州委員会、Bank of Englandおよび米国の連邦銀行監督機関の刊行物を参照。状況は要確認。↩
本記事は一般的な情報提供のみを目的としています。法律上または税務上の助言を構成するものではなく、個別案件に関する助言に代わるものでもなく、弁護士と依頼者との間に委任関係を生じさせるものでもありません。本記事は2026年10月時点の法的状況を反映しています。